農業水利施設のアセットマネジメントに関する研究
小林 晃
Study on asset management method for
irrigation hydraulic structures
Akira Kobayashi
この度,「農業水利施設のアセットマネジメントに関する研究」というタイトルで日本雨水資源化システム学会賞を頂きました。誠に関係諸兄の皆様には多大なるご支援・ご援助を頂きありがとうございました。この紙面をお借りし,御礼申し上げます。
アセットマネジメントというのは,元々は個人資産(アセット)のマネジメントに関するもので,金融関係で行われています。その概念を公共資産にも応用し,末永く,効率よく施設の機能を維持・改善していこうというのがここでのアセットマネジメントです。特に農業水利施設は新規に大規模なものが構築されることは当分ありませんので,現有資産を長く使うことが課題となっています。
施設は使っている間に老朽化しますし,豪雨や地震にも遭遇します。また,社会環境の変化により施設に対する要求機能も変化します。そのような状況において,構造的な不備を補いつつ,社会に役立つ機能を補完しながら,しかも経済性を考えて維持管理計画をたてることが望まれます。そのためには,施設の現状を把握して,劣化および災害によるリスクを計算し,修復手法およびその時期を適切に設定することが必要です。また,一つの地域内では,そのような施設が複数点在しており,どの施設をいつどのように修復するかを地域全体で検討することが必要です。そのような地域の施設の管理をアセットマネジメントと称して取組んでいます。
まず,施設の現状把握のために有効な非破壊検査手法を提案しました。(論文[1], [3], [7])手法は弾性波および電磁波を用いるもので,通常の波形を並べる手法ではなく,周波数解析から共振周波数を同定して反射面を求める手法を用いました。そしてその手法を実際のため池に適応し,電気探査結果などと比較してその有効性を検証しました。特に電磁波を用いた手法は計測が簡便であるので,複数の測線を短時間で計測することが可能であり,堤体内部の3次元水面形状を簡便に推定することに成功しました。
また,ため池の豪雨による決壊リスクを考慮したライフサイクルコストの計算手法を提案しました。(論文[2])。平成16年の台風23号による淡路島での災害記録をもとに,ため池データベース,DEM,レーダーアメダスの情報を用いて決壊確率の予測式を提案しました。そして,復旧損失と農業生産停止による損失を考慮して年累積リスクを求め,ため池のライフサイクルコストの算定を行いました。さらに,複数のため池を対象としたアセットマネジメント手法として,最適な各ため池の修復開始時期の算出法を提案し,修復計画は年間予算に依存したものとなることを示しました。(論文[5])また,農業水路が災害によって破損した場合に,最適な仮設パイプラインのルートをGISとDEMを用いて計算する手法を提案しました。(論文[4])
また,中山間地域の災害の大きな要因となる岩盤斜面の崩壊予測のために,降雨浸透と気温変化が岩盤の劣化に与える影響を考慮できる解析手法を提案しました。(論文[6])そして,一般には降雨よりも気温変化が劣化の進展に影響を与えるが,軟岩の場合は降雨の劣化影響も大きいこと,そして弾性係数の変化が劣化の指標となることから,非破壊検査による監視が重要であることを示しました。
以上のように,農業施設のアセットマネジメントには,現状把握技術,個々の施設の環境を考慮した災害予測技術,そして施設のライフサイクルコストの計算手法の開発が必要です。そして,このような分野の研究は力学のみではなく,経済,社会に関する知識も必要であり,研究者の独りよがりではなく,広く社会に受け入れられることが非常に重要です。今後も広く社会に目を向けた研究を継続したいと思っております。この度は本当にありがとうございました。
受賞対象論文
[1] 小林晃,丹羽亮太,柳本智也,山本清仁,青山咸康(2007):弾性波を用いたため池堤体内の水分状況推定,農業土木学会論文集,No.249,pp.1-8.
[2] 小林晃,山本裕介,岡敬人,青山咸康(2007):豪雨によるため池決壊を対象としたライフサイクルコストの算定法,土木学会論文集,C, Vol.63, No.4, pp.
954-962.
[3] Kobayashi A., Yamamoto K. and Tsunematsu H. (2008):Improvement of elastic wave
exploration as nondestructive investigation method of irrigation tank
embankment, Journal of Rainwater Catchment Systems, Vol.14, No.1, pp. 33-40.
[4] Kobayashi A., Yamamoto K. and
Hayashi T. (2008):Selection of route of temporary irrigation water supply
line with GIS in emergency situation, Journal of Rainwater Catchment Systems,
Vol.14, No.1, pp. 25-32.
[5] Kobayashi A., Yamamoto K. and
Hayashi T. (2008):Asset management of embankment of irrigation tank,
Journal of Rainwater Catchment Systems, Vol. 14, No.1, pp. 41-47.
[6] Kobayashi A., Yamamoto K. and Fukumoto Y. (2008):Numerical examination of degradation
of rock slope due to rainfall and ambient temperature by damage model, Journal
of Rainwater Catchment Systems, Vol. 14, No.1, pp. 49-56.
[7] Kobayashi A., Yamamoto K., Yanagimoto T., Tsunematsu H. and
Aoyama S. (2008):Nondestructive investigation of soil structure with radar, Journal of
Geotechnical Engineering, Japan Society of Civil Engineering, Vol. 64, No.3,
pp. 629-638.
京都大学農学研究科准教授,Associate Professor, Kyoto
University, Kita- shirakawa-Oiwake-cho, Sakyo, Kyoto,
606-8502, Japan